ザ・ウォール

最近知り合った台湾人とピンク・フロイドの話で盛り上がったので、ピンク・フロイドの映画「ザ・ウォール」をDVDで見た。

ザ・ウォール [DVD]

ザ・ウォール [DVD]

 

 
その台湾人は英語ペラペラだし、俺はもうこれで5度目か6度目ぐらい見た映画なので字幕無しで見てみたら、ずっと良かった。字幕のおかげで妙にセリフというか歌詞に引っ張られてた感じがあったようだ。

 

そもそもこの映画は全編ピンク・フロイドのCD2枚組アルバム「ザ・ウォール」のミュージックビデオである。
なので、アルバム「ザ・ウォール」が好きでない人は見ても何も面白くない…それに、少しぐらいは第二次世界大戦のイギリスの立ち位置を知ってないとホント意味わからないかな。。

 

まあ、もともとサイケデリックで意味が分からないのがピンク・フロイドの良さでもあるので、そこらへんはまあ好きな人だけでいいとは思うが、この映画は延々と暗い雰囲気で、キチガイ描写があふれて嬉しい困った映画ではある。

 

その心理描写というか何というか困った演出が盛りだくさんのため、日本語字幕でその内容というか歌詞をわかった気になってたが、そもそもの歌詞も狂ってたんだった。あえて字幕を見ないことで実は映画の画面構成自体はしっかりとしたストーリーを持ってたというのがわかった気がする。

 

およそ、この映画はほぼ曲をかけっぱなしで、単にセリフを言ってる場面などほぼ無いんだから、ある程度歌詞を知ってれば字幕なんて見る必要がなかったんだよね。。

 

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まあそれはそれとして、この映画含めてイギリスにおけるナチスの見方ってヒネてるよねと感じる。
どこかで読んだのだが、

EUというのは、神聖ローマ帝国への郷愁である

というのが実にしっくりくる。

 

教科書通りの解釈だと、EUの成立については第二次世界大戦の反省とかソ連の脅威のためとかという説明になるだろうが、それだとトルコの扱いなんかがうまく説明できないし、なぜドイツがEUのリーダーになってるのかという説明もうまくできない。

 

神聖ローマ帝国はドイツが中心なんだから、ドイツがリーダーになるのはわかる。で、ナチス・ドイツは一時期ヨーロッパを席巻し、領土的には神聖ローマ帝国以上を復活させたといえる。その一方、ロンドンを空襲でボッコボコにした。まあもともとイギリスは神聖ローマ帝国領土じゃないけど(だからEUから離脱したという説明もつくが)その郷愁があるのであれば、愛憎の念はわからんでもない。

 

またその教科書通りにナチスは悪い奴だ、許せないのが正義!という一方で、イギリス人たちが、あの統率のきいた当時最強の軍隊と制服への屈折した憧れをこの映画でも読み取ることができる。そーいう相反するヒネた感じがまたイギリス人っぽい。

 

あと、これは単に深読みしすぎなのかもしれないが、劇中の独裁者の旗印がトンカチのマークで、そのトンカチたちが一斉に並んで行進したり、教師がトンカチに変身して生徒をボコボコに人格改造(?)したりするのだが、これってマルティン・ハイデガー存在と時間」におけるトンカチの比喩表現をそのまま使ったのかな?とは感じる。

 

いや、ごめん。俺、「存在と時間」読んでも数ページでわかんなくて、筒井康隆なんかの解説でわかった気になってるだけなんだけど、人間って放り投げられたトンカチと同じなんだよ的なアレって書いてあるんですよね…?んでもって、ハイデガー自身ナチスに加担したことが知られている。

なにしろそのナチスっぽい集団に使われるトンカチたちって、いかにもハイデガーっぽいよーに思えるんだけどどうだろう。

 


Pink Floyd - Run Like Hell & Waiting For the Worms

 

ちなみに大ヒットしたアルバムに対してこの映画はヒットしなかった。ロジャー・ウォータズ自身、この映画を評して「暗すぎる」と反省してたらしい。