土と内臓

俺はいくつか疑問がある。
そのうちのひとつが微生物と自分との関係性について、である。

 

"ヒトの指先に数万以上の微生物が存在している"とゆーのを読んでから、んじゃ、一体その微生物は何をしてるのか?体に何らかの影響はあるのか?いや、体だけじゃなくて、そこらじゅう…家でも地面でも文字通り無数の微生物がひしめき合っているという事実をどう考えればいいのか?

 

生物学系の、特に専門書となればとにかく専門用語が多い分野である。もっと俺みたいな素人向けの本が無いかと思っていたところ、この本はなかなかピッタリであった。

デイビッド・モンゴメリー、アン・ビクレー「土と内臓」

 

 

そもそも微生物とは何か?という問題から実は現在もよくわかってない。何故なら"目に見えないほど小さい生物が存在している"ということ自体が顕微鏡が誕生してからはじめてわかったので歴史が浅いということと、目に見える生物とはかなり異なる特徴を持っていること、そして種類が多すぎるということがあるようだ。

 

例えば"人間の大腸の中でうごめく微生物の種類の多さは、地球表面で目に見える生物の種類の多さと同じぐらい"というあたりから気が遠くなる。ここでの生物の分類は、魚やヒトや猫や鳥やトカゲは「脊椎動物」として単に1種類として数える、というレベルである。とにかく種類が多すぎてほとんど現状ではわかっていないらしい。

 

ただ、病原菌については理解が進んでいるというのも事実である。現代人は、様々な病気の原因が細菌やウィルスであることを知っている。そのため、微生物は有害であるという認識となり、抗生物質などの化学製品で微生物を皆殺しにすることが良いことである、という風潮ができあがった。

 

しかし、現在では微生物を皆殺しにするのはかえって有害かもしれない、ということがわかってきた。大多数の役割のわからない微生物がいた方が人間にせよ植物にせよ病気になりにくいということが判明してきたからだ、という。

人間の場合、アレルギー疾患が多くなったのは微生物の生態が近年大きく変化したからではないかと指摘する。 

 

邦題の「土と内臓」の意味するところは、植物の根と、人間の大腸は機能的に似ている、という意味である。

 

植物はどうやって育つのか?という問いは、化学肥料が開発されたことで確定したかのように見えた。「窒素」と「リン」と「カリウム」を与えれば植物は劇的に育つことが判明したからである。しかしながら化学肥料を使い続けると、やがて収穫量が減り、病気も多くなる。そこでさらに化学肥料を追加し、除草剤その他もどんどん増やしていく結果となる。

本書によれば、化学肥料は人間でいえばステロイド剤みたいなもんだと指摘する。

 

植物の根には、無数の微生物が存在し、根自身が増やしたい微生物のために化学物質を放出することで善玉の微生物を呼び寄せて増殖させ、病原菌なんかの繁殖を抑えているという。一方、大腸でも無数の微生物群が病原菌の繁殖を抑えていることが判明している。最近だと腸内フローラなどと呼ばれるのがソレである。

 

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以上が本書のざっっっくりとした説明である。

 

…まー、いわゆる有機農業バンザイ、精米しないコメなり小麦が健康の秘訣だよ云々のオーガニック系の"よくある話"で、それに科学的知見をふまえたのが本書であるともいえよう。

 正しいのだろうとは思うが、やはり「メカニズムがわかってない」というのが弱点でもある。あまりに関係性が複雑すぎる、というのはわかるが、現在の科学哲学の基本である要素還元主義…物事の因果関係を可能な限り細分化して原因を特定する…という思考方法ではないため、どーしてもイマイチ説得力が弱いというのは誰しも感じるところではなかろうか。

 

内容の半分以上は農業に関する話なので、某Hにはオススメかも。

 

あと面白かったのは、人間の細胞1ついて3つ以上の細菌が同居しているという。細胞の数の3倍から10倍ぐらいの微生物と共に人間は生きている。その細菌は20分で世代交代する。人間の世代交代が30年として、細菌の時間を人間の時間で換算すれば、人間が1世代交代するまでに細菌は720万年!が経過している計算となる。なので、中年のおっさんともなれば、その体内で進化した微生物と共に生きているともいえる。