経済で読み解く日本史 明治時代

俺はいくつか疑問がある。
そのうちのひとつが金(きん・GOLD)の価格がなぜ高いのか、である。

※金だとキンかカネかわからないので、GOLDと書く。

 

昔はともかく、今、大金を払ってGOLDを手に入れる理由は"将来値上がりするかも知れないから"なのはわかる。しかし、そもそもGOLD自体に価値があるとは思えない。

※同じ理由で日本銀行の株式もそう。日本銀行東証(コード8301)に上場しており株が買える。しかし、その株を買っても配当は無いし、いくら買い占めても日本銀行総裁にはなれない不思議な株である。

 

GOLDはあまり使えない金属である。コストがかかるというのもあるが、アルミや鉄と比べると工業的には使い勝手が悪い。使われるのは、その見た目とほぼ化学変化しないことから指輪なんかのいわば"日常生活になくてもよい贅沢品"なのが多い。

※また余談だが、贅沢品とは"カネばっかりかかって不要なものでなければいけない"。これは王族・貴族文化の重要な点。

 

それにGOLDは持ってても利子がつかない。史上最低金利といわれても預貯金には利子がつく。

 

最悪、日本円が紙くずになったときに使えるよ!などいう説もあるが、そもそもそんな状況になったときにGOLDが役に立つとは思えない。米の方がマシだ。さらに海外で換金する場合、日本の刻印…三菱マテリアルとかの金塊なんかは流通できないだろう。

 

んじゃ、なんでGODLなのかといえば、むかしは金本位制だったから、としか思えない。
昔といっても結構最近まで金本位制は続いていたので、GOLD=お金、というすりこみがあってもおかしくない。

 

んでもって、その金本位制はなぜ成立し、なぜやめたのかも疑問に思ってた。

ふと、上念司「経済で読み解く日本史 明治時代」を立ち読みしたら、金本位制とは何か、からはじまり、戦争を含めて経済の視点から歴史を読み解くというありそうでなかった…そりゃあることはあるが専門的すぎたりいわゆるマル系だったりで…なんだか興味深ので買ってみた。

経済で読み解く日本史 明治時代

経済で読み解く日本史 明治時代

 

 

明治時代より以前から日本はGOLD+銀本位制だったが、イギリスの金本位制度を受け入れた。
なぜなら
・国際取引上、メッチャ便利だったから。(どのぐらい便利かは本書で)
・当時、金本位制じゃないと近代国家として扱ってくれなかったから。
さらに
・為替でいえば固定相場制になるので発展途上だった日本は有利だった。

 

ただし、最大のデメリットがある。
・GOLDの産出量=流通するカネの量
当時の世界において日本を含め各国の経済発展はすさまじく、よって貨幣供給量はどんどん増やすべきだった。しかし金本位制度においては産出されたGOLDよりも貨幣が発行できないため極端な貨幣不足に陥った。これが不況(世界恐慌)=デフレの元凶である、と指摘する。

恐慌はインフレではなくデフレである。 あまりにもドイツのハイパーインフレの印象が強いのと、社会科の先生レベルでは説明できないのかもしれない。

 

なるほど、その経済の動向と世界政治の動向は実によくリンクしているのがよくわかる。
本書のテーマだという

景気が悪くなると人々はヤケを起こして普段は見向きもされない危険思想にすがる

というのがよくわかる。

 

明治時代における日本最大級の出来事といえば日露戦争であろう。本書ではその日露戦争の戦費は誰がどのように調達したかについて足跡を追っている。そこには日本とロシアの国債レートが一覧表で示されているのだが、これで日本が近代国家として世界に認められたのかが一目瞭然。

歴史の教科書では明治時代には日本は国際的にも近代国家として認められるようになった、と書いてあるが、それは誰がどーやって認めたのか書いてない。

 

 日本はロシア戦への戦費調達のために高橋是清は何度も"莫大"な借金を海外(ロンドン市場など)に求める。借金=国債であり、いくら必要で、何年で返済し、その利子はいくらか、このあたりで近代国家か否かが判定できる。注目すべきは利子率で、日露戦争前のロシアやスペインなどの国債の利子=信頼性は日本のはるか上で、その頃の日本はトルコやエジプトと大体同じ程度の信用度だったことがわかる。その後、じわじわと利子率が下降していくことで、ヨーロッパ諸国と肩を並べるほどの信用度=近代国家として認められた、というのがわかるのである。

 

んで、日露戦争で勝利したのち、日比谷焼き討ち事件が起こる。これは日本国民が、戦争に勝ったのにロシアから戦利金も領土もほぼゼロ回答ということでブチ切れて暴れ倒した事件である。

 

ちなみに日比谷焼き討ち事件をどう描くかで著者の政治スタンスがわかる。

マル系や人権大好き学者なんかは国民は正義!だから当時の日本政治が悪い!などと書くことが多いが、これは普通に考えて"調子に乗った阪神タイガースのファンが暴れた"のと同じで、単に暴れた民衆がアホだったからである。リーグ優勝した阪神タイガースの選手や監督はむしろよくやった。本書ではアホの国民もそうだが煽りに煽ったマスコミにも責任があるだろうという指摘はもっともである。

 

ただ、著者である上念司はともかく共産党・(元)民主党がキライというのはよくわかる。まあそれが彼のスタイルなんだろうし。さらに表紙に自分の全身写真って…と思うが、これは上念司のオンラインサロンとかの商売…鈴木みそが指摘するように自信を商品化してプロデュースする売り方…なんだろーな、という思いが必要以上に伝わってくる。

 

…ともかく、江戸から明治となって食えなくなった武士たちの不満(月給まで記載)が過激思想をつむいでいき、日露戦争の戦費調達と満州建国によって英米を裏切り、やがては2次大戦へと繋がっていく様子が描かれる。

 

この本、高校生には無理かもしれんが大学生ならいける気がする。ただ、経済の初歩がわかってない人…例えば貿易赤字が"悪"だとか思ってる人にはちょっと無理かもしれん。 

 

なかなか面白かったんで、昭和編・平成編も読むつもりだが、安土桃山編とかは興味ないかも…。