利己的な遺伝子

読んだ方がいいとは思うんだけど、読む気が無かった本はたくさんある。
ドーキンス利己的な遺伝子」もその一冊だった。 

利己的な遺伝子 <増補新装版>

利己的な遺伝子 <増補新装版>

 

 ※俺が読んだのは1998年発行の古本

俺が学生ンとき(何年前だ?)に流行ってたモンで、この本の解説をした講義を聞いたのをおぼえている。俺はてっきり「DNAのこの部分に利己的な活動を指令する設計が!」的なモノを期待してたんだけど、講義は終始数学で終わった。遺伝子って生物学の範疇なんじゃないの?何で?…というのが印象に残ってた。

 

その後も遺伝子云々の話になるとおよそドーキンスの話がでてくるので、ず~っと気になってたけど学生時代に少し読んでやめてた記憶しかなかった。

 

んで、今回、読んでみた。うむ、昔の俺が読むのをやめた理由がよくわかった。結局、学生ン時の講義内容は間違ってなかった。DNAの構造云々とはほぼ無関係の話だったのだ。
それに、けっこう難しいよ…コレ…。世界的ベストセラーだ!みたいな本って皆が理解できるレベルでしょ?ドラゴンボール的なレベルでしょ?(←失礼)本書をちゃんと理解しようと思ったら大学生レベルでもちょっとキツイんじゃないかな…いや、数学というか数学的思考が得意ならいいと思うけど。

 

いや、本編に数式の記述はない。最後のオマケに数ページの数式の論文があって、実はその数式の説明を"数式を使わずに言葉で説明した"のがハードカバーで400ページ以上の内容になってる、ということである。しかも本編が終わった後の補足が100ページ以上ある!とりあえず読むだけで2~3週間はかかった。

 

ちなみに日本語の訳も悪い。英語の長文を日本語訳するときによくある感じで、英語の場合は否定NOTが文の頭につくのでわかりやすいだろーが、日本語でクソ長い文のあとに否定形(~ではない)があるとすごくわかりずらいし、文中の指示語(あれ・それ)が何を指してるのかわかりにくい。俺は日高敏隆の訳文キライなんだよね…。だったら英語で読めって言われると下向いちゃうんだけどさぁ。。

 

とにかく、本書をまとめると、
 ・遺伝の最小単位は種でも群体でも個体でもなく、細胞ン中にあるDNAである。
 ・遺伝子は利己的であり、なぜ利己的なのかを数学的(ゲーム理論)で説明した。
あと、オマケとして
 ・"文化"にも昔から引き継がれている"遺伝子的なもの"があり、それをミームと呼ぶ。

つまり「遺伝子のふるまいをゲーム理論で説明した」というのが主旨である。なので、最後のオマケについてる数ページの数式がこの本の"全て"といっていい。が、この数式の理解が俺には難しい。。

 

まあ、問い自体は難しくはない。

その1■ハト派戦略とタカ派戦略
2つの性質をもつ集団が生き残りをかけて争うとする。威嚇だけで争いを終わらせた方がお互い傷を負わない(ハト派戦略)とする個体と、やたら攻撃する個体(タカ派戦略)がいるとする。
 ハト派戦略は、もしタカ派と争ったら大敗するが、ハト派同士なら怪我がなくお互いマイナスにならない。
 一方、タカ派戦略は、もしハト派と戦ったら大勝するが、タカ派同志なら大けがして大損する。
この場合、集団内でハト派タカ派は何パーセントで安定化するか?
※詳しくは検索してちょ。

 

その2■囚人のジレンマ
2人の容疑者ABが別々の取調室に拘束されている。もしAB両方が黙秘した場合は両方とも大した罪にならない。両方がしゃべったら両方とも罰を受ける。いずれか一方が黙秘したのに一方が裏切ってしゃべれば、黙秘した方だけ罰を受け、しゃべった方は即時釈放される、とする。
さて、このゲームを何度も(200回)繰り返す場合、どういう戦略をとればいいか?

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※詳しくは検索してちょ。

 

基本、この2つのモデルがわかればこの本は理解できたも同然といえるのだが、俺にはこのゲーム理論の数式の理解に苦しむレベルなのでなんともいえない。結論だけみたら直感的にも合致するあたりだし、ナルホドそうか!とは思うんだけど、ホントに理解してんの?と言われると全く自信が無い、

 

ともかく、この本は遺伝子に関する"数学モデル"を提示しただけ、である。
正しいか間違ってるかはわからないが、ともかく最も合理的に説明できる、ということであるし、このモデルは今日に至るまで有効のようである。
俺が読んだのは1998年版なので、かなり内容も変わってるだろうとは思うが、根本的にはまだ通用するっぽい。

 

ただ"ミーム"の話だけ妙に毛色が違っている。ここだけなんかエッセイっぽい。
実際、かなり奇妙な構成で本の内容としても違和感がある。まったく数理モデルの話がないのでとっつきやすいというのもある。
これ、この章があるおかげで社会進化論なる壮大なクソが喧伝されるよーになった気もする。

 

…俺は社会進化論が大嫌いである。
概念的にはヘーゲルのテーゼ・アンチテーゼ・アウフヘーベン的な感じでぇ~などと言いつつも、中身はおよそマルクス信奉者のそれ。つまり"社会ってのは原始状態から右往左往しつつ時には革命的なんかがあってイイ方向になるんだよ"的な話が多い。それってキリスト教の終末論争からの焼き直しでマルクス社会学が提唱したモノをさらに化粧したのが社会進化論だと俺は思っている。

 

ちなみに著者のドーキンスマルクスも宗教もクソほども考えてないのがスガスガしい。本文中に"ヘブライ語の聖書をギリシャ語に翻訳したときに「若い女」→「処女」と誤訳したから処女懐胎とか言い出してさぁ~"など、そんなこと正直に書かなくてもいいのに、そのせいでアホのキリスト教徒たちとケンカしまくっている。

 

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俺はいくつか疑問がある。
そのうちのひとつが近親交配(近親婚)について、である。

 

よく近親交配は良くない、潜性遺伝子どうしで死に絶えるから、という説がある。本書「利己的な遺伝子」にもそのような記述がある。
(※遺伝子について優性・劣性を顕性・潜性とする書き換えには賛成する。)

 

近親婚良くないよね、という具体例としてハプスブルク家なんかの説明はよくある。

しかし、現代の人類、ホモサピエンスは7万年前には2千人程度だった、という研究が事実だとすれば、現代人ってすっごい近親婚じゃね?他にも例えばサラブレッドなんかは起源は3頭であることがわかっている。
https://www.jra.go.jp/kouza/thoroughbred/founder/
サラブレッドって近親婚じゃね?死に絶えないの?
さらに、日本で野生化したアライグマって1960年ごろに2頭の脱走したアライグマが原因であることが知られている。すげえ近親交配だと思うんだけどなんで絶滅しないの?

 

遺伝子は自分のコピーをばらまく。その時に重要な特性は以下の3つ
・長持ちする(永遠に生きるにこしたことはない)
・コピーがはやい(すぐ子供をつくれる)
・コピーが正確(自分と違う遺伝子はいらない)
以上はドーキンスがこの本で指摘しているのだが、だとすると、ますます近親交配がなぜ駄目なのか不思議でならない。コピーの正確性においては、他人同士よりも近親者の方が遺伝子が自分に似ているではないのか?
さらに、親が子の面倒をなぜ見るのか、については、自分の遺伝子に似ている(50%保有)からだというが、だったらなおさら近親交配しない理由がわからない。

 

いや、近親婚キモイでしょ?というのはそりゃそーなんだけどさ、人間だけじゃなくて他の生物全部で考えると逆に変だと思うんですよ。

 

もちろん、致死的な潜性遺伝子がどのぐらいの確率で存在しているか、で話は変わってくるが、この近親交配における致死的な潜性遺伝子モデルの本を俺は見つけたことがない。(いっぱいあるんだったらスミマセン)

 

それに、自分の遺伝子に似てる(何%か保有している)のが重要だというなら、一卵性双生児どうしはお互い命をかけて守る本能があってしかるべきだと思うんだが、そーいう話は聞いたことが無い。

 

俺がボンヤリ考えているのは"実は雌雄が存在する生物って超特殊なんじゃないか説"である。
単に遺伝子のコピーだけを考えると、細胞分裂だけで増殖するレベルの微生物が一番強い気がする。さらにウィルスだと、遺伝子(RNA)をコピーするだけの機械といってもいい。
…というあたりで、俺は微生物に興味がある。

 

そーいう微生物を前提に考えると、多細胞生物は特殊だし、さらに雌雄が存在するというのがさらに特殊となる。雌雄があるおかげでDNAが異常に複雑化するんだけどもなんで雌雄があるのか俺にはよくわからない。

 

よく言われるのは"同じDNAだと環境変化で即皆殺しになるため少しずつ違ったDNAにする"という説だが、これは冒頭の3つのルール(長生き・はやい・正確)のうち正確性に反するし、その部分は否が応でも間違ってコピーされてしまった結果(突然変異)で説明できるんじゃないかと思うし、その突然変異を考慮するならば雌雄いらなくね?と思うのである。

 

いや、その突然変異ってのがホント俺は理解不能で、ネオ・ダーウィニズムってさぁ…プンプン!って、もう3時間以上この文章書いてて疲れてきた!進化論の話、俺好きなんだよね。。