この世界の(さらにいくつもの)片隅に

映画館でTENETを見に行った際、一番鳥肌がたったのは、実は「DUNE/デューン 砂の惑星」の予告編だった。


映画『DUNE/デューン 砂の惑星』予告編

俺はピンク・フロイドホドロフスキーが好きだ。
大事なのでもーいっぺん言うと、俺はピンク・フロイドホドロフスキーが好きだ。

 

この予告編のBGMは、ピンク・フロイドの曲"Eclipse"である。
それをかなりアレンジしてある。良い感じだ。

 

さらに「デューン 砂の惑星」といえば俺はホドロフスキーである。
かなり昔に「デューン 砂の惑星」は映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーが企画したが実現せず、別の監督で映画化してしまった。

この話は、最近になって「ホドロフスキーのDUNE」というドキュメンタリー映画となっている。


映画『ホドロフスキーのDUNE』予告編

それをまさか、再度映画化とは!それもビルヌーブ監督か~…。
この監督の映画「メッセージ」と「ブレードランナー2049」は見たことがある。

 

ビルヌーブ監督の映像は俺の好きな絵ヅラ(人物がド正面に映ってて、基本左右対称になってるような感じの画面)である。例えるならキューブリック監督っぽい感じといえばいいのか、007スカイフォールっぽいといえばいいのか…G監督はキライらしいけど。

 

しかし、この監督の映画って、途中までは最高にワクワクするんだけど、最後の尻すぼみ感がハンパねぇ。例えるなら浦沢直樹のモンスターとか21世紀少年とか。

 

先のブレードランナーといい、DUNEといい、どうやっても映画キチらがこぞって批判しまくるよーな伝説的SF映画を再映画化するというイバラの道を、果たしてビルヌーブ監督自身が選んだ道なのだろーかと他人事ながら心配してしまう。

 

それはそれとして、
「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」見る。


『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』予告編

俺が今年見た中で最も素晴らしい。


前作の「この世界の片隅に」は、原作を知ってるせいか、テンポがはやすぎたように感じた。この40分の追加カットで、丁寧な描写ができたように思う。

 

先に内容は全部知ってただけに、見始めた5分後に俺は泣いてたので、俺が偉そうな評価もクソもないとは思うが…。

 

俺はこの原作者、こうの史代の「長い道」からのファンなので、もう10年以上前からになる。
この人の漫画はまるで昭和の子供向けマンガっぽい見た目である。小さなコマ割りのなかにも丸っこい人物が全身描かれる。藤子不二雄とか赤塚不二夫とか吾妻ひでおとか、そんな感じの"ほのぼの感のあるゆかいなマンガ"っぽい。
近年、こーいう絵の漫画は少ない。小さいコマに何人もの人をいろんな姿勢で描くのは、技術的に難しく、手間がかかるからだ。

 

んで、本作の原作漫画「この世界の片隅に」は、時折暗い影が垣間見えるものの、中盤まではサザエさん的にほのぼのとした、ゆかいなギャグマンガである。

 

映画も原作のマンガ通りに、画面には、基本的に全身が描かれる。
それが原作に似た、どこか昔っぽい、ほのぼのとした雰囲気を醸し出している。

一方で、バストアップ、さらに顔のアップのような場面は、感情が高まったシリアスな場面で使われる。

 

基本、この監督はもうすこしカメラが下から撮影してるような感じになると思うんだが、この映画では俯瞰目線、すこしカメラが上から撮影してる感じとなっている。ここらへん、 原作マンガの絵に似せるよう気を使ってるのがわかる。

 

ただ、原作者こうの史代独特のふんわりとしたギャグを、映画で表現するのは実に難しいな、とも感じる。
こうの史代の実際のマンガを見て欲しい。

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このマンガをシリアスな映画するとき、1コマ目のウサギの鼻息や2コマ目以降の手足がグルグルになったり、汗がとびちるというマンガ独特の記号表現(漫符)は使えない。

もし使ったら、極端なギャグアニメ映画になってしまう。

 

この映画で最大の難関だと思ったのは、憲兵のシーンである。

主人公すずが憲兵らに説教される場面は非常にシリアスに見えるが、実はすず以外の全員が笑いをこらえていただけ、というギャグシーンである。

映画では先ほどのアップにすればシリアス、全身を描けばギャグ、という描き方をしているものの、どーしてもセリフで説明っぽくなってしまっている。

 

そして最後、孤児を家に連れて帰ってきたシーン。孤児が白目をむいているのは”眠くて限界を超えている”というギャグ表現だが、シリアスすぎるシーンが続いたためにわかりにくいんじゃないかと心配する。

さらに、ここで家族全員がポリポリと体をかいているのは、孤児のシラミがばらまかれている、というギャグなんだが、これも一切説明はない。

 

とかなんとか、ケチっぽいことを言ったが、この監督の前作「マイマイ新子と千年の魔法」も素晴らしい。この監督の子供の描き方は群を抜いてると思う。これほどのレベルで思いつくのは高畑勲のアニメ「じゃりン子チエ」ぐらいだ。

 

そもそも原作の主人公がすずだったから、映画もすずが主人公だったはずだ。

もし、「この世界の~」の登場子供である"晴美"目線であれば、もっと凄かったかも知れないと俺は勝手に想像している。

あの爆弾の場面まで"晴美"→"すず"→"孤児"という目線で描かれたら、俺は号泣したかも知れん。

…いや、逆になんで原作と違うんだよ!と怒るかも知れんな…。

 

まったくの余談だが"戦争を庶民の目線で描いた映画"という、いかにも左翼系が好きそうなテーマで、さらに本作は傑作である。もっと左派系連中が喧伝してもいいと思うのだが、実は原作者こうの史代がバキバキの右翼系作家であるあたりに、左翼系が黙殺してるんじゃないかと勘ぐってしまう。

こうの史代は、いわゆる右翼系雑誌SAPIOに連載してたし、そもそも漫画「平凡倶楽部」なんかを読めば一目瞭然である。

 

だからといって、作品の良し悪しとは関係ない。こうの史代は右翼だが面白いし、山田洋二は左翼だが寅さんの「男はつらいよ」シリーズは面白いのだ。