木下サーカス四代記

山岡淳一郎「木下サーカス四代記 年間120万人を魅了する百年企業の光芒」読む。

 幼い頃、悪さをすると親から「サーカスに売られるよ!」と脅された記憶がある。サーカスが何なのか幼少期にはわからなかったが、なんか怒られてるのは理解していた。その記憶もあってか、幼少期からサーカスには何か後ろめたい、暗い印象があった。

 

そんな俺はサーカスを一度だけ見に行ったことがある。しかも結構最近。地元の空き地にサーカスのテントを設営してるんだなぁ、と思ってたら、知り合いが前売り券を買わないかと持ち掛けてきた。その前売り券というのも、サーカスの団員が地元の散髪屋に散髪をしにきて、配っていったという。それは木下サーカスじゃなくてもっと規模の小さいトコだった。

 

「映画とはサーカスである」という有名なセリフがある。言ったのはゴダールだったっけ?トリュフォーだったっけか?全然興味はなかったが、まあ一度、映画好きとしては見ておかねばと、自分と、友人の家族分のチケットを買った。

 

で、予想に反してと言うと悪いが、かなり感動した。一緒に行った家族連れも皆面白かったと言ってた。
こじんまりとしたサーカスであったが、目の前でギシギシと縄がこすれる音を立てながら空中でぶら下がって演技をしている姿は迫力があるし、火吹き男なんかの炎は、かなり離れていても熱い。団員のほとんどが外国人、しかもテントの隙間から団員の子供と思われる外人の子供がウロチョロしていた。
演技者は皆汗だくで、最後まで満面の笑顔だった。そのプロ根性に俺はなんか感動したのである。

 

という俺の体験はともかく、日本で一番デカいサーカス、木下大サーカスの本「木下サーカス四代記」を、某Hが送ってきてくれた。ありがとう。

 

木下大サーカスは、今もある。

www.kinoshita-circus.co.jp

コロナで大変だろうけど。

 

本書の前半は、切った張ったのヤクザの話である。サーカスを含めて"興行を打つ"というのはヤクザの仕事である。

 

美空ひばりの興行はヤクザの山口組だったことは知られている。

ともかく興行を打つには地元の顔役に挨拶をして、場所をとって、小屋を建てて、チケットを売って、周りに屋台なんかを連ねて…というのは大昔からヤクザの仕事だった。

 

本書では木下サーカス香具師(ヤシ)・テキヤであってヤクザではないと書いてはあるが、江戸時代はともかく近代においてはほぼ一緒だと言っていいんじゃないだろうか。

 

本書でも木下サーカスの創業者の弟が地元ヤクザに殺されて、そのヤクザが刑務所から出所してきたところを左腕一本切り落とせばチャラにしてやろう、という場面がでてくる。これでヤクザじゃないんだよと言われてもねぇ…コワイコワイ。

その殺された弟は護身用に拳銃を持ってて云々という話も書いてあるんだけど、おおやけにできる話レベルが本書で、実は…というのは俺の裏読みしすぎだろうか。。

 

さらにヤクザの世界、政治も絡めてウヨクの怖いヤクザ連中とどう付き合ってきたか、当時の原敬内閣も含めた記述もでてくるものの、ちょっと説明が足らない気がする。

 

実はというか、そもそもヤクザ=博徒(バクト)と呼ばれる連中が政治参加、それも日本の民主主義の歴史において当初から自由民権活動をしていたことは事実である。
谷川昇博徒と自由民権」なんかにその様子が描かれている。

江戸から明治になり、無職になったサムライとかヤクザ連中が徒党を組んで議員を送り出そうとする運動があった。

日本の自由民権運動は誕生当初からヤクザによっても積極的に行われたのである。

 

ただ、ヤクザだけに対抗する候補者のところに行って糞尿をぶちまけるとか、運動資金のために強盗するとか、かなり滅茶苦茶な事件もあった。
例えば、名古屋事件という名前で知られる強盗事件では、運動資金のために偽札を作ろうとして、その偽札づくりの資金のために51件もの連続強盗をするという滅茶苦茶ぶりであった。しかも実行犯の多くは何のために強盗をしたのかわからない始末であった。

 

ま~…そこらへんを知ってか知らずか、著者の説明による木下サーカスはヤクザじゃないよ、ヤクザはウヨクだよ、ウヨクは悪だよ、だから木下ファミリーは善だよ、という図式は、ちょっと無理がないかね…?

 

この本の252ページ"三代目を襲名した木下光宜"の写真があるが、神道の祭壇?っぽい部屋をバックに、紋付き袴で盃を持っている"社長"が三代目を襲名って、そりゃどっから見てもウヨク・ヤクザの襲名披露でしょ?コレ…。

 

俺は別に昔のサーカスはヤクザだった、という話でもいいと思うんだけど、えーっと、ポリティカルコレクトネスだったっけ?こんなご時世で、ヤクザの渡世であったとは描けない事情もわかるといえばわかる。

 

ちなみに本書で美空ひばりアメリカ公演にいった話があるが、確かこの時、美空ひばりアメリカ側の公演を担当したのが最近死んだジャニーズの創業者、ジャニー喜多川であったはずだ。

 

やがて日本の高度成長期において、新聞拡張のチケット、各地で開催された万博にくっついて事業展開していくさまが描かれる。
そこらへんは、ナルホド、こりゃ~先見の明と地道な努力で大変だよな、とは思う。

 

一昔前までは新聞が最大の広告機関で、次にテレビであった。
今はどうなんだろう?正直、中年の俺ですらほぼテレビの地上波を見なくなった。

いや、正確に言うとyoutubeで昔のタモリ倶楽部を見てるけど…。

 

興行って大変だよな…映画とかでも劇場なんかよりネットフリックスなんかで公開するのも増えてきてるし、実際に人を一か所に集める、というのはますます困難な時代であろう。

 

外国人含めてプライドの高い職人を集め、輸出入が厳しくなった絶滅危惧種を集めて芸をさせ、日本を転々と移動するという企業…とは、考えてみると実にスゴイ。この本を読んで木下大サーカスを見たくなった。いやホント。

 

そーいや、東京オリンピック、やるんですかね?
スポーツ評論家(?)の玉木正之は、オリンピックはもはや金権体質で、金もうけのためにやらざるを得ないんだ、と語っていた。これ以上延期すると企業のスポンサー契約が切れてしまう。そーするとこのコロナ不況で航空会社とか追加で何億も払ってスポンサーになるのかといえば難しいだろう。そー考えるとIOCとしては、絶対にやる!と言い張らないとスポンサー企業が逃げてしまうんだよ、と解説していたのは説得力がある。


それに今回、選手に対するワクチンをIOCが費用負担すると言っているが、それはオリンピック精神に反するんじゃね?と疑問を呈している。オリンピック選手にワクチンうつなら、優先的に途上国にまわすのがオリンピック精神なんじゃねーの?という指摘も確かにそー思う。

 

まあ、俺としてはもともとオリンピック自体反対だし、東京で開催しても全然関係ないレベルの田舎で住んでるので、どーでもいいんだけどさ。。