読者ハ読ムナ

藤田和日郎「読者ハ読ムナ(笑)いかにして藤田和日郎の新人アシスタントは漫画家になったか」読む。

タイトル長いな…。しかし、興味深い本だった。

 

著者は「うしおととら」など少年サンデーの看板漫画家、藤田和日郎。その藤田和日郎のところに架空の新人漫画家がアシスタントとして手伝いに来る、という物語構成になっている。

少年マンガはどうやって作られるのか?という問いを、藤田和日郎と編集者の2人が新人漫画家に親切に教えていくのだ。

 

マンガ家入門の本・マンガといえば「サルでも描けるまんが教室」とか「バクマン」なんかが思いつくが、この本はマンガではない。なので、物語もギャグもはさまずに"少年マンガとは何か"、"少年マンガで売れるにはどうしたらよいか"の説明をストレートによく解説してくれている。

 

サルでも描けるまんが教室」と「バクマン」との違いは、本書はマンガではないし物語にもなってない。絵についてはあまり解説しておらず、マンガは絵よりも物語、特にセリフが重要だと指摘する点だろう。なので、物語(マンガ的にはネーム=絵コンテ)、そしてその世界観、キャラクターの重要性について細かく語られている。

 

思いつくところをかいつまんでいえば、
1)少年マンガの基本として、主人公には(人間的に)足らないものがある。それを何かの事件など、物語を通じて満たしていく構造になっているべき。

 

これは、町山智浩なんかもハリウッド映画の構造で語っていたこととほぼ同じだが、要するに主人公が成長する物語でなければならない。

 

主人公は例えば甘えんぼだったりワガママだったり世間知らずだったりするのだが、社会でもまれて、一人前の人間として成長していく…というのが少年マンガの基本だとする。

 

2)主人公はいい奴であるべき。そして主人公と同じぐらい魅力があるサブキャラが必要。

 

読者は登場人物への感情移入を基本とする。なので、主人公がいい奴でないと共感してくれない。

 

そして主人公が一人だと物語が進めにくい。2人いれば会話で自然に状況説明ができるし、物語を説明しやすい。さらに主人公とサブキャラは基本性格を反対にすれば会話の掛け合いがはずむ。

 

3)ハコを意識すべし。
新人でいきなり長期連載とはならないので、普通は読み切りでページ数が限られている。そのページ数でおさまる物語の規模にすべし。

 

4)話の展開が予想がつくのが良い。

天才でもない限り意外性を狙うのは良くない。基本はハッピーエンドにすべき。読者は自分の思い描いてた期待通りのハッピーエンドを読みたいものである。その期待を裏切ってはいけない。

そして、その期待通りの展開ながら、読者の想像の超えるハッピーを描くべし。

 

なるほどな~と思いつつ、先日見た映画「WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜」を思い出した。


映画「WOOD JOB!(ウッジョブ)〜神去なあなあ日常〜」予告

俺は「WOOD JOB!」は佳作だと思う。

その前に見た「ファントム・スレッド」がフランス料理のフルコースだとすれば、「WOOD JOB!」はラーメンみたいな気安さがあるが、決してマズイわけじゃない。

 

「WOOD JOB!」には、上記の少年マンガの文法が全てそろっている。
1)甘えた子供が、ド田舎の林業で鍛えられて、人間的に成長する物語。

2)主人公とその兄貴分は、初対面の言動はヒドイが、実はいい奴。

3)2時間でちゃんとおさまる物語。

4)期待通りの展開でハッピーエンド。

 

それに、邦画としてよくある「話の内容が予算的に無理がある」パターンではない。無理なCGとか、とってつけてたようなセットもない。(アクションシーンでミニチュアっぽいのはあるが、まあ許せる範囲)

 

というわけで、「WOOD JOB!」は少年マンガの王道をおさえた小粒ながらイイ映画だ。

最後、期待を超えるハッピーというわけではないが、これで良しと思えるラストである。