〆切本

締め切りに関するアンソロジー本「〆切本」読む。

〆切本

〆切本

 

 夏目漱石寺田寅彦、内田百閒、志賀直哉遠藤周作…明治の文豪から現代作家まで色々と〆切に悩む文章ばかりをそろえてある。短いのは数行、多くても数ページ程度でパラパラと何処から読んでも良い。

 

俺としては一人の作家にどっぷり浸るのが好きなのであまりアンソロジーは読まないけども、なかなか興味深い。

 

俺が特に興味深かったは2つ。
冒頭の白川静による「締」と「切」の漢字の成り立ちの解説だが、表意文字としての「締」「切」と、熟語となった「締切」の意味とは、ほぼ無関係じゃね?というのが妙に面白い。

 

そして、岡崎京子岡崎京子のマンガはほぼ全部読んでたと思うんだけど、この〆切についての短編漫画を読んだ記憶がなかったので…もう何十年も前なので忘れてたのかも知れんが…嬉しかった。

 

確かに吉村昭"締切前に原稿なんて書けるでしょ?なんで皆悩んでるのかがむしろわからない"的なのも変わってて面白かったが、
俺が一番面白かったのは扇谷正造による坂口安吾への手紙である。


この本で唯一といっていい編集者側の手記で、作家側に締切りを催促しまくったあげく、受け取った原稿が使い物にならなかったという場合の、編集者から作家への手紙である。

 

結論から申し上げますと、私個人は、たいへんに面白い読物と存じますが、編集者、とくに、朝日新聞の編集者としては、大いにチュウチョされる次第でございます。 

 

どうやら、新聞社の微妙な確執(陣屋事件)を扱った内容だったから、らしいのだが、

 

で、今回は原稿をあずからせていただきます。
おねがいして、ヤイのヤイのと、おいそがせしてをいて、たいへん恐縮に存じますが、ご厚誼に免じ、御諒承いただければ幸甚でございます。

 

"チュウチョ"という片仮名が妙に面白かった。

俺も何か人に頼んでおいてから使い物にならなかったときは「たいへん恐縮に存じますが、ご厚誼に免じ、御諒承いただければ幸甚でございます。」などと言ってみよう。

 

ちなみに、〆切があった方がいいのか悪いのか?という疑問については行動経済学の本、ダン・アリエリー「予想どおりに不合理」にて興味深い実験がある。

 この本、また別の機会に紹介したかったのだが、この項目はモロにこの〆切本にかぶってたので紹介したい。

 

大学(MIT)の一学期間(12週間)のうち、ある授業でレポートを3つ提出しなければならない。
このとき、締切を設定した方が成績が良くなるだろうか?悪くなるだろうか?
以下の条件で実験した。

 

1)4週目、8週目、12週目にそれぞれ締切があり、厳守せねばならない。
2)締切日はいつでもよいが、自分で締切り日を設定しなければならない。ただし、一度決めた締切りに遅れた場合は罰則がある。
3)最終日までに3つを提出すればよい。

 

で、結果、最も成績が良かったのは1)で、強制的に締切りをつくった方が成績がよく、次いで2)、最も成績が悪かったのは3)で、強権的で独断的な締切りをつくらないと成績も悪くなるという結果がでたという。

 

これは、人間は自制心に限界があり、目先の利益(とりあえず今は遊んでおきたい)にとらわれがちである、という…まあ、そーだよね…といった感じの心理学的理由を解説してある。