最悪の予感 パンデミックとの戦い

マイケル・ルイス「最悪の予感 パンデミックとの戦い」読む。

今回のコロナウィルスについて、アメリカの内幕を描いたノンフィクション。

 

要約すると、アメリカのコロナ対策失敗の原因はアメリカの健康保険のトップ組織(CDC)が何もしなかったから。

 

そもそもCDC(疾病対策予防センター)は、ウィルス感染なんかの場合に全米をコントロールできる組織として、その能力は世界最強ではないかと思われていたが、今回のコロナで無能っぷりをさらけ出す結果になったという本である。

 

箇条書きでテキトーにまとめると、
感染症対策で誰がどのような法的権限があるのかほぼ誰も知らなかった。州や地域ごとに権限がバラバラ。
・ただし行政として明確にトップであるCDCは典型的な官僚組織であり責任回避するだけで新しい行動をとることができない。
・なぜなら過去のウィルス感染対策で、皆が反対するほど強力な感染対策をとった結果、結局何も起きなかったことが大失敗とされたから。
・コロナ当初、何かをするよりも、何もしなくてよい理由を探していた。
・コロナ大流行後は、何もしなかった理由を探している。
・作者はトランプ元大統領が大嫌い。


ただ、これは容易に非難できない。日本もほぼ同じだからだ。

 

全然俺は知らなかったが、厚生労働省は地方の保健所に直接命令できないらしい。
都道府県知事が基本的にトップになる。そのため地域間で対応がバラバラであった。

 

なので、救急車の搬送も都道府県単位で、すぐ隣の県境を越えた病院にベッドが余っているからといって搬送できない。

ちゃんと法的に手続きをしようとすれば、県知事同士がOKを出すか、自衛隊ぐらいしか県境を越えられないのだそうだ。

 

今回のコロナワクチンについて、海外からの輸入交渉は外務省、運搬は国土交通省…と、とにかく権限がバラバラでなかなかまとめられなかったそうだが、そこらへんを考えると、現在のワクチン普及率は菅総理のリーダーシップといえるのだろう。

 

さらに医師会と厚生労働省とはズブズブであったことが明確化した。
今回、大手マスコミからほぼ聞かれないが、ワクチン注射の費用はすべて税金である。タダではない。その費用をいくらにするのか?について、医師会がゴネまくって医者の取り分を大幅に上げたことを須田慎一郎が指摘している。

 

そして、注射ができるのは医師だけだとして、決して看護師なりに打たせようとしなかったのも医師会である。ただし結局は政府がOKの指令を出したが、現実にはそこまで緊急性を要しなかったようだ。

 

ワクチン大規模接種会場がほとんど設置されなかった、あるいは機能しなかったのは医師会が原因である。
つまりは大規模接種会場をつくると医者が儲かりにくいからである。
大規模接種会場ができた都道府県はそれなりに医師会とケンカできる知事だったということ。
ちなみに東京都では当初、大規模接種会場は自衛隊によって設立、運用された。

 

そういえば、
当初、厚生労働省はコロナで42万人死亡する、という発表をした。

www.asahi.com

この42万人死亡という数字は何を意味しているのか?

単純に"あ~、そのぐらい死んじゃうんだ~"ともおもえるが、この数字を厚生労働省が出した意味は
"なにもしなくてもよいという理由付けだった"高橋洋一が指摘している。

 

42万人が死ぬ、倍の80万人が重症、軽症者は何人予測なのかわからないが、数百万人を超えるのは間違いない。この規模で特別な病棟が必要だと法的に位置付けたため、現実に対応不可能なのは明確である。

 

つまり、厚生労働省や医師会が何かしても無駄だから何もしないよ、という理由が、この42万人死亡という発表だったという指摘である。

なので、事実、財務省から5兆円の予算がついたが、ベッド数はほとんど増えなかった。
マスコミなんかで病床使用率が発表され続けたが、患者数が増えると同時にベッド数が増えれば問題ないのだが、ベッド数が増えないことを報道することはほとんどなかった。

 

よく医療崩壊がどうのこうのという話があったが、熱が出ても医者に行ってはいけないという時点で医療崩壊ではないか?

仮に39度を超える熱が出たとして、そもそも何の病気なのか全然わからないのに家で寝てろ…しかも、それを判断するのは医者でもない保健所の職員というのは医療崩壊といわずになんといえばよいのか?

 

本書によれば、感染症のコントロールは、反応が15秒遅いクルマを運転するようなものという。

感染症対策で何が正解か、というのはおそらく誰もわからない。

 

今回、厚生労働省がワクチンに及び腰だったのは、これまでワクチンに関して訴訟されまくって負け続けたトラウマがある、との森永卓郎の指摘がある。

むかし、学校でBCGなんかのワクチン集団接種があった。

しかし、ワクチン反対派によって異議申し立てを受け、結局は全て無くなってしまった。

これはワクチンによって病気が激減したからこそ副反応が目立ってしまった結果である。

副反応をゼロにするのは現在の科学では不可能だし、副反応があるから嫌だという感情論を客観的な数値で納得させるのはこれまた不可能である。

まあ、それだけでなく薬害エイズ事件なんかもあるので厚生労働省がガチガチの官僚組織化…何かして失敗するよりも何もせずにすませよう…という方向になるのもわかるといえばわかる。

 

今回の感染症対策で唯一の正解といえるのは、まずはデータを開示して、誰が何を決定したのか、あるいは決定しなかったのかを開示する。

 そのすべての結果を5年後、10年後、皆に判断してもらう。

 そして、次の感染症対策に役立てる、ということだろう。

 

なお、本書に登場する感染者の滅茶苦茶な行動っぷりに感心する。新型肺炎にかかったメキシコ人がアメリカの隔離病室に入れられるも、売春婦を呼んだり家族を呼んだり、好き勝手に外出しまくったあげくGPSをつけられるもはぎ取って国外に逃げてしまう。。

これを読むと、日本の感染者数が少ないのは、真面目に隔離病棟に入院してるとか、日ごろのアルコール消毒とか、やっぱ国民性はあるのかな~と思わざるを得ない。