貿易赤字と企業の赤字

よく貿易赤字と企業や家庭の赤字とはまったく意味が違う、というが、説明は多少むつかしい。
というか、俺も実はシッカリ理解していない気がする。

 

赤字は悪い。これは企業や家庭では当たり前。
しかし、"貿易赤字"は別に悪でも善でもなんでもない。
なぜなら、
 1,単純に会計上の分類の言葉が赤字というだけ
 2,日本経済はそもそも貿易赤字で問題ない
 3,ミクロ経済現象と混乱している
以上3点がその理由である。

 

この説明を「高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学」から抜粋してみよう。

 

仮にG監督がアメリカ人に100万円で動画を売ったとする。
このとき、


G監督の動画100万円がアメリカ人に送られる→貿易黒字(経常黒字)ぶん100万円

アメリカ人からG監督の預金口座に100万円分が入る→資本赤字ぶん100万円

 

国際収支の面から言えば、
100万円分のモノが日本→アメリカへ
100万円分のカネがアメリカ→日本へ
と移動しているだけで、必ず収支は差し引きゼロになる。

 

ということで、まずは
 1,単純に会計上の分類の言葉が赤字というだけ
の説明が以上である。

 

で、
 2,日本経済はそもそも貿易赤字で問題ない
は少々込み入った説明になる。

 

まず、貿易赤字・黒字とは何か?という話だが、
単純に、(輸出)-(輸入)がプラスなら貿易黒字、マイナスなら貿易赤字である。

これを前のブログのGDP三面等価から考えてみる。

 

torisoba-bekunai.hatenablog.com

生産(Y)=消費(C)+貯蓄(S)+税金(T)=消費(C)+投資(I)+政府(G)+輸出(EX)-輸入(IM)
を思いだしていただきたい。

 

真ん中の式を消すと、
生産(Y)=消費(C)+投資(I)+政府(G)+輸出(EX)-輸入(IM)
となる。

 

この式から、国内で生産されながら国内で消費(C)されなかったぶんを、外国人が買う(=日本からの輸出(EX)を外国人が買う)という解釈が成り立つ。

 

これは、カネの面から言えば、
貿易黒字=外国への資金の貸し出し額
といえる。
これは
 1,単純に会計上の分類の言葉が赤字というだけ
の説明と逆パターンで同じ話ではある。

そもそもアメリカはず~~~っと貿易赤字国家である。カナダやイギリスもそうだ。貿易赤字が国を衰退させるという理屈は会計上も現実にも成り立たない。

 

…で、貿易収支の話から言えば、
生産(Y)=消費(C)+投資(I)+政府(G)+輸出(EX)-輸入(IM)
この式の
輸出(EX)-輸入(IM)
この部分がプラスになれば黒字、マイナスなら赤字である。

 

んじゃ、日本のGDPの割合からすればどのくらいか?
GDP=生産(Y)=消費(C)+投資(I)+政府(G)+輸出(EX)-輸入(IM)
である。
戦後から見ると、輸出(EX)-輸入(IM)の値はGDPの0~2%程度である。

 

んでもって、プラスとマイナスに変動している。
基本的に、国内の景気が良いと貿易赤字、景気が悪いと貿易黒字になる。

 

なぜなら、景気に左右されるのは消費(C)もそうだが投資(I)が一番影響がある。
生産(Y)=消費(C)+投資(I)+政府(G)+輸出(EX)-輸入(IM)

 

この式で、

生産(Y)が同じで投資(I)の値が少なくなれば、輸出(EX)-輸入(IM)の値はプラス=貿易黒字になる→不景気
一方で、

生産(Y)が同じで投資(I)の値が多くなれば、輸出(EX)-輸入(IM)の値はマイナス=貿易赤字になる→好景気

なので、およそ不景気のときに貿易黒字になるのはこのためである。

 

んでもって、先の
1,単純に会計上の分類の言葉が赤字というだけ
の説明で、日本にカネが入ってくれば経常(貿易)赤字=資本黒字となる、ワケで、
実際のカネとは、外国が日本の為替や債券や株式を購入していること、である。

規模から言えば、自動車とかのモノ・サービス全体と比べて、カネの取引量が100倍ぐらいデカイ

 

まとめると、
GDPにおける輸出(EX)-輸入(IM)の割合は0~2%程度
カネの取引量(資本黒字・赤字)と比べてモノ・サービス(経常黒字・赤字)はごくわずか。

なので著者は、

これまで日本の経済成長は国内経済が成長したことによる。日本が貿易立国だったことは一度もない。」と断言している。


一理ある。

ただ、GDPにおける輸出(EX)-輸入(IM)で、単純に
GDPにおける輸出(EX)の割合は、2019年度の数字で約19%となる。
これが多いか少ないか?は解釈がわかれる気もする。

 

最後の要因である
 3,ミクロ経済現象と混乱している
については、

例えば電気屋の棚に日本製の…なんだろう…ゲーム機がいっぱいあったが、徐々にアメリカのゲーム機にとってかわられたら、なんか日本がアメリカに負けた感がある。

 

これは、シェア率で考えてしまうからである。

 

確かに売り場の面積の都合上、ゲーム機が10個しか置けないなら、10個のうち何個が日本製かが印象に残る。しかし、肝心なのは全体の経済成長である。

もともとゲーム機が世界全体で1万台しか作れず、そのうち日本が8千台つくっていたとする。
それがやがて世界全体で10万台製造するようになり、日本が4万台だとすれば、シェアは半分になるが生産量は5倍である。


シェアではなく全体の生産量で考えるのがマクロ経済である。

 

そもそもこの国際分業の時代に、貿易収支の意味があるか?と本書は問うている。
トヨタがクルマ1台をつくるとき、原材料の鉄鉱石から制御プログラムやパンフレットのデザインなど、世界中のモノ・サービスとカネがやり取りされている。最終的に日本が売ったからといって、日本だけが儲かるような仕組みにはなっていない。
具体的にいえば、日産自動車の株主はフランスであるし、日産マーチはタイで製造されている。それでも日産がマーチを売った時、日本経済が損をするわけではない。日本のGDPは上がるのはもちろん世界のGDPが上がる。

 

この国際貿易については、都道府県別の貿易と思っても良い。
北海道が赤字だからといって北海道が自動車製造することに利点は無い。北海道は他の都道府県よりも生産性が高いモノ…農作物とか…を生産した方が、北海道のみならず日本全体にとって利点があるといえる。(※この話はリカードの比較優位論になる)

 

というわけらしいが、納得できましたか?
話が長い?…まあ、そうだよね。。