平家物語

山形浩生「経済のトリセツ」に生産性の話が出てくる。

 

今、日本の一人あたりGDPは先進国どころか後進国レベルに落ち込んでいる。これは生産性が悪いんだ!日本人の仕事の生産性をあげろ!という話を最近よく聞く。まあそうかもな?と思う一面、生産性ってなんだろうと以前から疑問に思っていた。


例えば、吉野家なんかバイトするとしよう。東京で深夜だと仮に時給2千円、田舎だと1千円はありえる。んじゃ、東京は生産性が倍なのか?東京だと2倍の仕事量か?といえば多分、変わらないはずである。単純に東京という場所だから時給が倍なのだ。だったら生産性って何だ?

というあたり、非常にわかりやすく説明してくれている。

 

本書の場合は散髪の値段で、日本のQBハウスなら千円、フィリピンだと百円、ガーナだと十円。この時、ガーナで一人が散髪してるあいだに日本だと百人が散髪できるのか?といえばもちろんNO。

 

つまり生産性における賃金については、絶対的な生産性ではなく、その社会の平均的な生産性で決まる。そして、その水準を決めるのは製造業である。
製造業なら機械生産で百人分・千人分の仕事量をこなすことができるが、サービス業はそれほど差がつかない。

 

だったら品質…熟練した技能によって単価が上がる=生産性が上がるってことじゃない?という疑問もキッパリ否定する。いくら匠の技だったとしても、高く買う客=需要が無ければ意味が無い。
つまり、需給関係のほうが重要だ。

 

なるほど~。

 

著者の山形は、ネットで生産性の話をしたら基礎以下の連中しかいないことがわかったのでこんな基礎中の基礎みたいな話をしてやってるんだ!となかば逆ギレしてるのがいかにも山形っぽくて面白い。
そもそも生産性とは何か、という議論は100年前ぐらいに議論しつくされているという。

 

面白いのは、んじゃ、どうやって生産性を上げればいいのか?について、それは今でもわからない。
なにしろノーベル経済学賞クルーグマンですら「そんなのわかんねぇ」と言ってるんだからと紹介している。
いまのジャーナリストや経営者連中たちが、生産性を上げろと声をそろえていうが、その方法がわかってたら、皆そーしてるに決まってるだろ!と、これまた逆ギレしてるのが山形っぽくて面白い。

 

あと、俺が生産性の話で疑問に思うのが、ブランド、である。

カバンを純粋に機能的に考えればレジ袋でよい。それがシャネルとかのブランドのカバンになると10万とか20万とかする。他にも洋服でもマンションでも食い物でも、ブランドものは高くても売れる。

以前、バーバリーの服が売れ残ったので焼却処分したら、貧乏人に安く配れ!と怒られたというニュースがあったが、それはバーバリーにとっては損である。ブランド価値を維持するために焼却処分したのは誰でもわかる。安売りしないことで価格を維持するのがブランドの醍醐味だから。

このブランドという生産性はなんだろう?と思う。

 

あと、俺が興味深かったのはリフレ派をめぐる昨今の流れである。
バブルが崩壊した90年代後半、デフレ云々の議論が出始めた頃である。

その頃、俺は友人に「デフレって何?安く買えるんなら何か悪いことがあるの?」と問われて、そもそも何も知らなかったので何も答えられなかった。
確かその頃から政治では構造改革とか財政均衡プライマリーバランスとかの話が出始めていたはずだ。
で、構造改革が隆盛を誇ったあたりに上げ潮派という経済派閥?があったのを記憶している。

てっきりリフレ派って上げ潮派のことかしら?と思ったら、違うっぽい。

 

今、世界の潮流…というよりも日本とドイツを除いた世界はリフレ派といっていいんじゃないだろうか。日本だけがここまでGDPが伸びない理由は、リフレ派ではなかった、つまりインフレ期待をさせなかったから、という理由は俺にはとてもにシックリくる。

 

日本経済がダダ下がりした理由はいくつもあるが、端的に言って将来的にインフレなるぞと皆が思わなかったから。その理由として、黒田総裁以前の日本銀行の失敗、構造改革という目標がはっきりしない政策、財政均衡プライマリーバランス)重視の緊縮財政、あたりである。

 

最近になって、やっとリフレ派的金融・財政政策がとられるようになったとはいえ、消費税増税とかトチ狂ってる政治に憤懣やるかたないというのもわかる。
そこらへん、本書ではバブル崩壊から現在に至るまでのリフレ派の動向がまとめられていて興味深かった。

 

本書では岸田政権の話は無いのだが、岸田政権の財政政策はリフレ派ではない。
岸田首相は「新しい資本主義」というスローガンを掲げているが、今のところ、それって社会主義なの?としか思えない政策だったり、財政均衡とか言い始めちゃったりするのがもうダメっぽい。

 

少なとも現在において、万能の経済理論は存在しない。状況によって経済政策は異なる、としか言えない。それで現時点で財政均衡を重視するというのは間違ってるとしか俺も思えない。

 

 

■今期の新しいアニメ「平家物語」、第一話面白い。


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令和の時代に平家物語ってなぁ…と思いきや、コレが良かった。
監督が山田尚子というのでまず間違いないが、高野文子が参加している!