神々の沈黙

以前から疑問がある。
Q、今の人類が誕生してから10万年ぐらい経過しているといわれるが、文明ができたのはここ3千年前ぐらいである。9万年以上というか最近まで人類は何してたん?ボーッとしてたん?

 

この疑問にキッパリと回答した話を聞いたことが無いのだが、唯一といっていい仮説がある。

 

A、人類が意識を持ったのがちょうど3千年ぐらい前だったから。

 

この衝撃的?な仮説を提唱したのがジュリアン・ジェインズ「神々の沈黙 - 意識の誕生と文明の興亡」である。

俺は読み終えてから数日経つのだが、なんというか…モヤモヤする。

正直、読んだというよりも目を通したという感じで、俺では詳細まで理解できるレベルではない本ではある。

 

いかにもトンデモ理論ながらワクワクが止まらないのはアーサー・ケストラー「機械の中の幽霊」以来である。それを知的好奇心というと頭が良い感じに聞こえるが、例えるなら推理小説の最後のオチを読んでるような気分であった。

 

内容的には哲学、言語学、考古学、心理学、大脳生理学なんかが縦横無尽に語られているので、まとめて説明するのもなかなか難しい。

 

そもそも、人間の意識って何だ?という説明が実は一番やっかいなのだが、本書の冒頭から「意識とは何か?」を哲学的に説明しているのでいきなり難しい。実は俺も本書の意識の定義をイマイチ理解できてない。(実際、少なくとも現代科学は意識を定義づけできていないので、意識と言われるモノがホントに有るのか無いのかもはっきりしてない。)

本書では<アナログの私>などという表記をされているが、ざっくり言うなら、自分を客観的に考えるということ、アタマの中にもう一人の自分を描くようなものと言ってもそんなに間違ってない気がする。なんで自分はこんなことしてるんだ?これから自分はどうするべきか?などと考えるのは意識があるからである。

 

で、その3千年より以前の人類、意識が無い人類とは具体的にどんな感じなん?といえば、全人類は統合失調症(と同じような状態)であったというのである。

 

ここらへんから本書では大脳生理学っぽい話になっているのだが、統合失調症の患者は、よく頭の中で命令される、という。ここから逃げろ!とか、あそこに家を建てろ、とか、突拍子もない話を脈絡もなく、疑いも無く「しなければならない」状態である。命令されることに従わざるを得ない。
これが古代人の姿だと著者は指摘するのである。

 

この仮説によって、もうひとつ別の疑問に答えることができる。
ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史」にて、宗教って要するに昔は良かった、ってことだよね~。という指摘がある。これはスルドイ。

宗教って、昔、神様がいて平和だったのが今では神様がいなくなった、あるいはチカラが衰えたので社会が乱れているんだよ、という話ばかりである。
宗教とはちょっと性質が異なる儒教ですら、昔に理想国家があったのでそいつを見習え、という教えを説く。

 

Q、なぜ世界中の宗教は「昔は神様がいて良かった」という物語ばかりなのか?

レヴィ・ストロース構造主義なんかは"もともとそういうものだよ"という説明であって、それがいつ?何故できたのか?には答えてなかった。

その回答を本書がしてくれている。

 

A、古代人類はみんな統合失調症状態であって、アタマのなかで神と一体化していたからである。

そもそも神という概念自体が後付けなのだが、直感的な思考そのものに何も疑問が無いのが古代の人間である。それが徐々に、なんか直感的なセンスって間違ってるかも?という疑問が生じてきたのが意識のはじまりだ、というのである。

 

古代の人間は、集団といってもせいぜい数十人レベルである。数十人レベルの集団は、それぞれ意見をたたかわせるようなことはせず、皆の直感で動くことに何の不都合も無かった。それが、他の場所からやってきた集団と交流したり、文字を使うことで徐々に意識が発達してきた。

 

文字の発明はデカイ。文字はデータを記録するので、後の人間が読み解いて理解する必要がでてくる。
そもそも意識が無くて統合失調症状態の古代人は、時間軸を理解できないので"物語"を解釈できない。しかし、文字を理解しようとするならば前後の文脈を読み解く必要が出てくるので、直感だけでは通用しなくなる。文字の読み書きの発展は意識の発展とイコールである。

 

ここで古代叙事詩イーリアス」「オデュッセウス」を中心に文字の使われ方を慎重に見極めようとしていく。
詳しい話は本書を読んでもらうとして、古代は比喩表現が無い、という特徴があると指摘する。

日本語で例えるならば…何だろう…例えば「血を流す」という表記は、ホントに血が流れてる場合もあるが、戦争も意味している。古代では、ホントに血が流れてる場合だけで具体的で客観的な表記しかなかったのに、時代を経るにつれて様々な比喩表現が登場してくる。これは意識が誕生して発達することにより心理描写が可能になってきたからだ、と指摘するのである。

 

そして、現代において神に会うための方法…神仏像をつくったり、ある特定の場所に行ったり、特別な人にしゃべってもらったり、儀式を行ったり、占いをしたりするのは、すべて古代の統合失調症状態に戻ろうとする試みである、という。

 

いや~、俺は面白かったんだけど、読者を選ぶ本だよね…。