MANDRAKE

いきさつは忘れたが「いつサムライはいなくなったのか?」と外人に聞かれた。
それは明治政府ができたときで近代革命である。
その革命はヨーロッパと比べると特殊なトップダウンだった。

普通、ヨーロッパでの近代革命はボトムアップ、民衆蜂起で、下級階層が上級階層に戦争を仕掛ける内戦だった。

 

しかし、日本は上級階層であるサムライ側から、もう政権やめますよ~と宣言したのである。無血革命だったのは歴史上珍しい。
もちろん、多少は内戦的なものもあったけど。

 

と説明すると「そーいう映画ってないの?」と言われてすぐには思いつかなかった。

で、後日、ふと思い出したのは
ラストサムライ
かなり前に見たけど、再度見てみた。


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トム・クルーズ、カッコいいよね~
トップガン2と同じ感想以外でいえば、最後の戦闘シーンで描かれる群衆の数がすげえ多いので結構迫力がある。


それに意外と日本の描写がまともだった。
何故か日本人が英語が喋れたり忍者とかはアレだけど。

 

本作では武士たちが刀やチョン髷を捨てて近代へと移行するときに、最後までサムライを捨てずに中央へ戦いを挑むサムライ側からの視点で描かれる。これを多少アメリカ風に、インディアン側からの視点をちょっと混ぜ込んでいる。
トム・クルーズアメリカ軍人としてインディアン虐殺の立役者としてかかわったことがトラウマとして描かれる。

 

インディアン虐殺って悪じゃね?とゆーのって、昔の道徳を現代の価値観で裁くわけで実はズルい手法なんだけど、だからこそ罪悪感(=現代の正義・倫理観)を持つトム・クルーズだけが現代においてこの物語の主人公たりえる。さらに言うとそのインディアン虐殺も最後には無意識的に贖罪されてしまうという物語のために現代アメリカ人にとっても魅力なのかもしれない。

 

この映画では当初、トム・クルーズはインディアン虐殺の功績から日本政府に雇われ、最後のサムライ討伐に向かうが、逆に捕虜となってしまう。しかし、そこでサムライの思想に感化され、逆にサムライ側として日本政府に立ち向かう、という物語。

 

そのサムライの思想とは何か?として描かれるのは武士道精神なんだけども、本作ではイマイチよくわからない。そもそも俺も含めて現代日本人も武士道なんて知らないのは外人と同じ。武士道の元ネタは新渡戸稲造の武士道とか、葉隠あたりなんかの引用だとは思われる。
ちなみに三島由紀夫葉隠を"公務員の心得だ"と評している。

まあ本作における武士道の思想って儒教における陽明学っぽくて主流派だった朱子学じゃないよね、などというのは無粋だろうけど。

 

本作のテーマでもある、なぜトム・クルーズ中央政府よりも封建制のサムライを選んだか?という理由は、わかりやす~い悪役が中央政府側にいる、というのもあるが、サムライ側には命よりも大事な価値があるんだよ的な正義・道徳観があるんだよ、というもの。


トム・クルーズがインディアン皆殺しにしたのは、だってお前はアメリカ政府の軍人で命令にちゃんと従ったわけでしょ?だから無罪なんだよ、とサムライたちに説得され、んでもって、こんどは武士道をないがしろにする日本中央政府が敵なので、武士道を守るためには死んでもいいんじゃね?という感じ。

 

この構造って、南米の共産ゲリラでも別に理屈は同じだよね。。
傍から見れば反政府・暴力組織なんだけども、ゲリラにもそれなりの理屈があるっていう。それに命をかける姿は感動的っしょ?という構造は同じといえよう。

寺山修司の"身捨つるほどの祖国はありや"でいえば、トム・クルーズにとって身捨つるほどの祖国を敵側のサムライの国に見つけた!という話。

 

しかし、当初の"なんでサムライの時代が終わったか?"という説明はこの映画には無い。
本質的には西欧列強と対抗するためだとは思うんだけど、そーいうのを描いた映画って何かあったっけ?しかも英語で…。

 

で、その外人とサムライの話をしてたとき、

そーいや昔の日本人は右手と右足が同時に出る歩き方(ナンバ歩き)してて、今の歩き方=右手と左足が同時に出る歩き方ってのは、サムライが終わった明治政府以降にイギリス軍人からの軍事訓練から輸入されて、小学校の体育で"行進"を教えられたんだよ、と伝えたら

外人がその場でナンバ歩きをしはじめて「ウソだ!歩けねぇだろ!」と信じてくれなかった。

 

■ネットフリックスで「千年女優」見つける。


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監督の今敏は間違いなく天才のひとりだったと思うんだけど日本の知名度は低い。しかし海外では非常に評価が高いはず…じゃないかな。


俺自身、"千年女優"もすごく面白いか?といわれると、正直、微妙ではある。ただし素人目に見ても演出はズバ抜けてる。ラストの主人公が延々と駆け抜けるシーンなんかはスゴイよね。

しかし、なんでここまで日本で評価低いの?といろいろ考える。
・アニメだけど子供向けではない。
・アニメだけどオタク向けではない。
アニメってだけで馬鹿にする大人向けアニメ…としか思えない不思議なアニメ監督である。

 

この人の作品って、わざと共感性が低いように作ってあるように思える。主人公と一緒に泣き笑いするようなドラマって低俗でしょ?それより一段深いドラマ性ってのがあるんだよ、という主張が聞こえてくる作品ばかりで、常にドラマ全体を俯瞰して眺めているような描き方である。

それにアニメなのに実写化できるように描いている。
それは現実と虚構が入り混じっているという作風のため、そもそもがアニメという虚構から現実を描き、やがてその現実が虚構とあいまいになる、という感じを演出するにはリアルさが必要なのか?とも思う。

 

さらに狂気を描いた「パーフェクト・ブルー」や「パプリカ」は力強い。音楽には平沢進を好んで使う、というあたりからも現実と幻想とそれに伴う狂気的雰囲気が好きなんだろう。

 

ちなみにその平沢進の初期のバンド、マンドレイク(MANDRAKE)は当時の日本では非常に珍しい超攻撃的なプログレバンドだった。


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