マルクス批判?何を今さら?
というのはごもっともですが、マルクスは文字通り世界を震撼させた思想家であることは間違いありません。共産主義を目指したソ連が崩壊した現在でも新冷戦時代とか呼ばれて、資本主義の権化であるアメリカと共産主義が正しいとする中国との争いは激化しております。
なぜこれほど共産主義は世界の半分から嫌われ、そして半分をいまだ魅了してやまないのでしょうか?
まずは結果として見れば、共産主義への夢は完全にキチガイだったとしか言いようがありません。
共産主義こそが正義としたソ連のスターリンや中国の毛沢東は、自国民を数百~数千万人規模で虐殺しました。ポル・ポトが政権を取ったカンボジアでは自国民の半分以上が虐殺されたことを考えると、こいつはヤベェ思想だと誰もが思います。
どこで何を間違ったのでしょうか?
前に説明したマルクス主義の歴史から考えてみましょう。
1、資本主義が超発展します。
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2、少数のスゴイ金持ちと、大多数の貧乏労働者(プロレタリアート)の差が開きます。
↓
3、大多数の貧乏労働者(プロレタリアート)が金持ちをやっつけます=革命
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4、共産主義社会という天国がやってきて、貧乏人がむくわれます。
この歴史は本当でしょうか?
資本主義側も、資本主義がメッチャ発展したら貧富の格差は広がると考えてますので、1~2は今のところ正解だと俺も思います。
経済学者のピケティも、歴史上、資産を持ってる金持ちがずっと儲かってたよね、という科学的調査を発表しました。
昨今はGAFA…グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンのIT系企業が国家を超えて超巨大化しているのは誰もが知っています。
10年ぐらい前にニューヨークの金融街(ウォールストリート)を99%の貧乏人が占拠するぞ!という運動が起こりました。アメリカでは金持ち上位1%がアメリカの30%以上の資産を持っているんだそーです。
そして昨今、AI(人工知能)で仕事がなくなる!という話、ここらへんのマルクスの話とすごい似てると思うんですよ。資本主義の発展によって高度な技術・機械化で人間の仕事が奪われる…って、マルクスの言う通りだと思いませんか?
(ただしこの部分、俺としては、マルクスの話と同じだということで、だったら逆にAIで仕事がなくなることは無いなと思っています。なぜなら、200年ぐらい前からずっと高度な技術・機械化がされていますが、そのせいで大量の失業者どころか大量の就職先が生まれ続けてきたからです。200年近く間違い続けてきたんですから、おそらくAIも同じ道をたどるんじゃないでしょーか。)
んじゃ、
3、大多数の貧乏労働者(プロレタリアート)が金持ちをやっつけます=革命
はどうなんでしょう。これまでプロレタリアートが金持ちをやっつけたことがあったでしょうか?
…ところでプロレタリアートって何?
これまでの俺の文章で貧乏労働者(プロレタリアート)と、わかりにくく書いてます。なぜかといえば、200年ぐらい前にマルクスが考えたプロレタリアートというのは、実はかなりボンヤリしてたからです。
マルクスは実際に見たワケじゃなくて、マルクスが考え出した想像上のモデル=プロレタリアートなのです。
マルクスが考えたプロレタリアートは、資本主義が発展してできる集団(階級)です。技術の高度化・機械化によって、今にも失業しそうで、何も保障がなく、人生を切り売りして生きていくしかない労働者たちです。
これって俺が思うに今でいうところの2次産業=製造業の工場労働者で、かつ、非正規雇用(アルバイト)みたいなもんじゃないかと思うんですよ。
なので、農家、農民はプロレタリアートではありません。このことはマルクスも指摘しています。
日本だとプロレタリアート=農民というイメージがありがちですが、農民もプロレタリアートと一緒に革命しようぜ!と言ったのは、ソ連のレーニンからです。
さらに、いろんな(弱小?)民族たちも一緒に革命しようぜ!とか言い出したのはレーニン後のスターリンです。
マルクスは資本主義が発展しまくったイメージは、当時のパリあるいはロンドンでした。ドイツはパリに比べて全然発展してない田舎でした。ロシアなんてさらに9割が農民というド田舎だったので、マルクスにとって、先にロシアが革命を起こしてしまったというのはあまりに予想外でした。
そもそもはじめに資本主義社会がメッチャ発展する必要があります。マルクスはフランスやイギリスこそが見習うべき資本主義社会で、自分の生まれ故郷のドイツ頑張れよ!という気持ちがあったことは多くの人が指摘してます。さらに、ドイツより東のヨーロッパはド田舎です。
マルクスはポーランドを除いて、東ヨーロッパに住む田舎者のスラブ系民族をかなり馬鹿にしてたようです。
ちなみに「翔んで埼玉」で例えるとですね、埼玉県出身のマルクスが、共産主義革命は東京都心3区でしか理屈上ありえないと思ってたのに、まさかの群馬県で共産主義革命が起こったみたいなもんですね。そりゃマルクスも関西弁で「なんでやねん!」と叫ぶ気持ちはわかります。
ともかく、ホントに貧乏で教育も受けられない貧民たち、そもそも農業しかない無いクソ田舎の群馬…じゃなかった、国家や民族を小馬鹿にしてたあたり、マルクスとエンゲルスが実は金持ちのボンボンだったのが理由かもしれません。
結局、資本主義が発展しまくったはずのフランスやイギリスで革命は起こりませんでした。
革命が起こったのは西側諸国と比べて資本主義が全然発展してないロシアとか中国、ユーゴスラビア、ベトナム、キューバとかのクソ田舎だけでした。マルクスが小馬鹿にしていた地域でしか革命は起きなかったのです。
ここで先の
3、大多数のプロレタリアートが金持ちをやっつけます=革命
は、革命は起こったことは起こったんですけど、マルクスが思ってたのと違った革命でした。ロシアや中国の革命は、王様が農家の集団に倒されるというもので、資本主義の発展云々なんか関係ありません。
なので、革命がおこった後の4、天国が来るというマルクスの予言とはまったくかけ離れていきました。
フランスやイギリス、それにアメリカや日本、そしてマルクスの故郷ドイツなんかは、資本主義が発展した結果、金持ち階級(ブルジョア)とも貧困の労働階級(プロレタリアート)とも区別できない、真ん中あたりの小金持ち(中産)階級が大量に生まれました。その結果、革命なんか起こりませんでした。
※実はドイツは革命が起こりそうだったんですけど、それを止めたのはヒトラーでした。なんか皮肉です。
まあ、いくらマルクスが天才であっても、さすがに200年前に今の職業を予測することができなかったワケです。某HやG監督の職業はいわゆるサービス業・3次産業で、そんな仕事が将来山ほどでてくるなど思ってもみなかったし、製造業の2次産業でも、大規模化すると経理や人事や労務管理なんかの仕事が必要になってきますが、それも予想するのは無理でした。
■なんでそーなるの?それは唯物史観だから!
そのマルクス主義の歴史のもとは「唯物史観」です。さらに「唯物史観」のモトとなる「上部構造と下部構造」のさらにモトになった哲学「唯物論」っていいの?悪いの?どっちなの!?といわれても、これは単にモノの見方であって、どっちが正しいというワケではないと思います。
人間はなぜ机の上の果物がリンゴだとわかるのか?という質問に答えようとすると、
まず原子があって分子があって細胞があって脳があって眼があって…と答えていくのが「唯物論」です。
一方で、先に「リンゴ」という考え方があって、それを脳が理解して目で確認するからだ、と答えるのが「観念論」です。
別にどっちが間違ってるワケではなくて、卵が先か鶏が先かみたいな話です。
その唯物論から考えたら「上部構造と下部構造」があって「唯物史観」になるじゃん!というのはかなり強引な気がします。その上部構造と下部構造とかって、そんな設定自体が無理があるんじゃない?というのが俺の素直な感想です。
下部構造=物資・経済が豊かじゃないと、ろくな上部構造=宗教・哲学も生まれないというなら、2千年前に登場したキリスト、ブッダ、孔子なんかはどう考えるべきでしょうか。現代に至るまで圧倒的なカリスマ、知性があるんですが、2千年前の下部構造なんて現在と比較にならないほど貧弱だったはずです。
…まあ、共産主義は絶対に正しい、これまでにない究極の知性だ!とすればわからなくもないんですけど、結果的にそーではなかったですよね?
さらに直感的に考えて変だなとわかりやすいのは、芸術あたりでしょうか。
芸術=美しさというのは、善悪とか真偽を超えて、美しいという理由だけですべてがひれ伏すのです。
なので、唯物史観的に美しいというのは、もはや純粋な美しさとは違うんじゃないでしょうか。
ここらへん、ちょっと抽象的な話でわかりにくいんですが、
マルクスの時代、ヘーゲルの哲学が大流行します。基本的にA対Bでどっち?やがてAとBから生まれたCが勝つ!みたいな考え方です。
なので、妙に二項対立(ブルジョアvsプロレタリアート、唯物論vs観念論)で考えるクセがあるような気がします。
いや、でもさ、人間が野蛮な文化から発展して今の高度な文化に至るという説明
野蛮→古代の奴隷社会→王様・貴族・平民がいる封建社会→資本主義
ってのは正解なんじゃないの?という気もします。
これはマルクスから100年ぐらいは誰もがそう思ってました。
そこにレヴィ・ストロースというフランス人が、いや、違うよ?野蛮人から洗練されるなんて無いよ?俺、見てきたもん!と主張しました。
見た目は野蛮人でも、ちゃんと観察すれば、奥底には現代ヨーロッパ人と同じレベルの文化があると"発見"したわけです。群馬の原住民たちは見た目はともかく東京都港区と同じレベルの文化があったのです!
前に「衣食足りて礼節を知る」というセリフがでてきましたが、衣食なんてなくても礼節はあったのです。
これは自分たちこそが善であり洗練され優れた人間だと思っていた西洋ヨーロッパ人らにとって、ダーウィン「種の起源」以来の超ド級の衝撃だったと俺は思うんですが、そこらへんはどうなんでしょうか。
ちなみに、マルクスは唯物論が正しくて観念論が間違っているとは言っていません。
むしろ、ソ連のレーニン以降の共産主義者たちが唯物論だけが絶対正しいと主張しはじめました。
■ところで、ピンハネ(搾取)ってなんだ?
マルクスは経済学として、労働とカネは同じと考えていました。つまり、Aさんが一日した労働とBさんの一日した労働の価値は同じで、交換可能だという考え方です。
単純な肉体労働だとだいたい当てはまる気もします。俺は、一日中ベルトコンベアから流れてくる商品にシールを貼るアルバイトをやったことありますが、こんなの誰がやっても同じです。
しかし、当然ながら、少し仕事が複雑になってくるとAさんとBさんとの知識や技術が違えば結果は変わってきます。
…これを考慮に入れる必要はなかったんですよ。マルクスの時代はとにかくモノがなかったんですから。
一番の問題は、商品の値段は労働力で決まる、という考え方です。
1日でできる仕事よりも1年かかってできた仕事の方が値段が高いのはわかりますよね?
1人でできる仕事よりも10人かかってできた仕事の方が値段が高いのもわかりますよね?
なんか、わかる気がします…が、本当でしょうか?
もし、10人が1年がかりでつくった商品がクソだったら誰が買うでしょうか?
つまり、商品の値段は、買う人(需要)と作る人(供給)とのバランスです。
1人でパッと作ったモノでも、必要があれば高値でも欲しがる人はいます。
モノの価値は労働力ではなく需給関係で決まる、という当たり前の話です。
さらに言えば、マルクスのいうように、利潤とは経営者がピンハネしてるぶんだ!というのは正しいといえば正しいのですが、世の中で売られている商品・サービスにはすべて利潤があります。商品にかかったコストに利潤を乗っけないと、売れば売るほど赤字になってしまって、やがてその商品は消えてしまうのは当たり前だからです。
ただし、資本主義でもこの利潤をのせなくてもいい、というルールが通用する分野があります。
公共財・福祉サービスの分野です。単純に公務員は利潤を追求してません。
しかしながら、公務員の給料は税金からですので、みんなからピンハネ(搾取)してるのは逆に公務員だという話も成り立ちます。
いずれにせよ「搾取」という意味はボンヤリとしてて、いまでも言ったもの勝ちみたいな話です。
それはそれとして、現実に革命が起こってしまったソ連なんかは、誰がどのようにしてモノの値段を決めるのか、大問題になりました。
仮にパン1個の値段を決めようとしたとき、材料の小麦の値段、パンをつくる調理器具、オーブンの部品、オーブンを組みたてる職人の給料、パン職人の給料、小麦を育てる農家の給料、その肥料…気が狂うほどに細かく分かれた値段とその整合性について、誰かが"正しく"判断しなければなりませんでしたので超大変です。
さらに、いくら"科学的に正しい生産"でも、計画通りにいくことはありません。農業は天候に左右されますし、工業でも慣れない仕事はうまくいきませんし、原材料を国外から輸入したり完成品を輸出する際は値段が変動します。
そこで、先に正しい値段を決めて現実を従わせる、従わなければ現実が悪いんだ、という無理な方向になりがちでした。
ちなみに、マルクスの理屈として労働はカネと同じなので、労働力を銀行にあずけて労働力を引き出す!という銀行が実際に設立されたことがありますが、あっという間につぶれました。
…え?まだマルクスの悪口が続くの?
いえ、それでもなぜ世界の半分がマルクスのトリコとなるのか?その魅力について説明しようかと思います。