タックスヘイヴン

橘玲の小説をブックオフで見つけた。

橘玲タックスヘイヴン

タックスヘイヴン Tax Haven (幻冬舎文庫)

タックスヘイヴン Tax Haven (幻冬舎文庫)

  • 作者:橘玲
  • 発売日: 2016/04/12
  • メディア: Kindle
 

 ざっくりとした話は…シンガポールで日本人の金融マンが死ぬ。自殺か他殺か、登場人物たちがその真相を調べると、その背後には…という感じのミステリー?サスペンス?風小説。

 

この小説の本当の面白さは、プライベートバンクの中身を解説してある点だろう。

 

プライベート・バンクといえば、超裕福層だけが口座を持つような特別な銀行、という印象で、一体どんなサービスなのかはよくわからない。
この小説は、そのプライベートバンクのサービスと利益の仕組みをわかりやすく描いてある。

 

ざっくり言えば、プライベート・バンクのサービスとは脱税指南である

 

今の日本の法律では、親が子に年間110万円以上を贈与すると、受け取った子供は税金を支払わなければならない"贈与税"がある。
本書は、その贈与税を回避する方法なんかをサラッと書いてある。

日本の税法では、贈与を受けた側が税金を払う。一方、アメリカの税法では税金を払うのは贈与した側だ。親が日本で子供がアメリカにいると、日米いずれも納税義務を負う人間が非住居者になるので、結果的に、何百億円贈与しても合法的に税金を一円も支払わずにすむのだ。

 

簡単に言えばこういうカラクリで、実際の細かいルール…アメリカの居住者になるには3年以上住んでる実績が必要とか、海外口座に5千万円以上ある場合は金融庁に届け出が必要であるとか…を、プライベート・バンクが教えてくれる、ということである。

 

一方、プライベート・バンク側としては、必ず、顧客の口座のカネを銀行側が資金移動させても良いという権限の委任状(Power of attorney パワー・オブ・アトニー)にサインさせる。その契約には2種類ある。
 1、銀行内の他の口座間なら資金移動してもよい。(リミテッド・パワー)
 2、銀行外にも資金移動してもよい。(フル・パワー)
このうちフル・パワーで契約した場合は、ほぼ何があっても文句を言えないよーになるらしい。

 

初版が2014年、そんなに古くは無いので、まだ使える知識ではなかろうか。必要かどうかは知らんが…。

 

本書では、冒頭、日本円で5億円の現金を韓国を経由してユーロに換金することでマネーロンダリングするカラクリを描いており、ナルホドと膝を打つ。
その後、日本を含め、シンガポール、中国、タイ、カンボジア、スイス、などなど金融事情、また相続問題などを絡めて、よくここまで知ってるもんだと舌を巻く。

 

一点だけ、俺も知ってたと自慢したかったのはSWIFTデータ。物語の中盤、謎の数字とアルファベットの羅列が暗号のようなものとして出てくるが、あれ?これってSWIFTデータじゃね?と気が付いた…俺ぁココだけ自慢したかったの!
(ちなみにSWIFTデータとは、金融機関同士が通信するために国際的基準でつくられた文法みたいなやつ)

 

俺もだいぶ昔だが、プライベート・バンクを少し調べたことがある。
基本的に資産1億円から…というが、不動産1億円では話にならない。現金で1億円が最低ラインというか、1億円ではメリットがない。現金3億以上でないと意味がないんじゃないかと思う。

 

そして、現状、日本のプライベート・バンク事業は金融庁につぶされた。

 

脱税と節税は文字通り塀の中と外ほど違うが、実際はグレーゾーンが大きい。法律があいまいというのもあるが、その適用もかなり恣意的といわざるを得ない。これはおそらく日本の中小企業含めて経営者なら誰しも感じるところだ。

 

本書とはあまり関係ないが、例えば、会社の役員報酬をどう決めるか、について、アメリカでは利益があれば全部役員報酬にしても基本OKのはず。しかし、日本において役員報酬は年ごとに大きな変動があってはならない、という暗黙のルールがある。
なので、アメリカの大企業の役員報酬が何十億円アップしたなどというニュースがあるが、日本ではほぼ不可能といってよい。なぜなら税務署が認めないからだ。税務署が認めない理由は、役員報酬=経費であり、法人税の税金逃れだとするからである。

 

なので、まれに会社の株式をほぼ100%以上もってる人=会社のオーナーが、その会社の従業員となっているケースがある。これだと従業員の給料が1億円でも役員報酬ではないからOKなのだ。
(ただし、法人税とは別に個人には所得税がかかる。利益を法人にしようが個人にしようが結局は税金はかかる)

 

まあ、そーいう感じで、日本と別の国との法律・金融ルールの差で商売していたプライベート・バンクであったが、現在ではそーいった昔の意味でのプライベート・バンクほぼ無くなった。日本の金融庁が特別厳しいというよりも、アメリカの金融当局の規制が厳しくなったからである。ゴルゴ13で有名なスイスの銀行も、今や筒抜けとなった。そこらへんの説明も本書で、シティバンクとかHSBCとか、実際の事件なんかの解説含めてしてくれている。

 

今ではプライベート・バンクの口座は金融庁に完全に筒抜けであり、むしろ目を付けられる原因であると本書は指摘している。

 

なお、そのアメリカが最も目を光らせているのがオフショア取引。

問題となっているオフショア取引とは、パナマなんかの極端に税金が安い国、いわゆるタックス・ヘイヴンで口座を持ち、課税を逃れているケースである。
オフショア取引についてはネットフリックス『ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-』での説明がわかりやすい。

www.esquire.com

オフショア取引最大のメリットは、資産を匿名化できることにある。

 

数年前「パナマ文書」の名前で、税金が無い国="タックス・ヘイヴン"であるパナマにて、オフショア取引している法人・個人の名前と口座が暴露された。

日本の企業、個人も多数記載されていたが、ほとんど報道はなかった。一部、その記載先の企業なんかへのインタビューはあったが、全員が"節税対策である"とのコメントだった。

 

この件について、高橋洋一は「脱税以外に意味ないでしょ?」とわかりやすいコメントをしている。