「読書大全」の余波

ハラリ「サピエンス全史」によれば、
宗教なんかの知識体系は昔より今が無知(=昔は良かった)という前提になっているが、科学哲学の特徴としてそもそも無知であることが前提となっている。

 

このくだりを読んでから古典を読む気力がなくなっていたが、堀内勉「読書大全」を読んでから、やっぱり古典は現代に十分通用する…というか、科学技術系以外はほぼ変わっていないんじゃないかとも思える。

 

例えば政治制度について、民主制は2千年以上前からあった。
紀元前のプラトンによる著作ですでに民主制は知られていた。フランス革命なんかよりもず~~っと前に民主制はあったのだ。

 

そのプラトンによれば政治制度を4つに分類し、もっとも優れた政治制度は"知的で道徳的な支配者による政治(優秀支配制)=哲人政治"であり、民主制は3番目。独裁制よりもマシ、程度である。


少なくとも2千年以上前においては民主制は"よくない政治制度"の扱いである。

では何故、現代では民主制が最も優れた政治制度だと言えるのか?
全世界的に2千年以上続いた封建制度はこれまでの人類がアホだったからなのか?

 

無論、そうではなくて単に今が民主主義社会だからだ。
キリスト教ガチガチの中世ヨーロッパで、キリスト教が何故もっとも優れた宗教なのか?と問うのと同じである。

 

では、封建制度のメリットとデメリットは?という質問に、ちゃんと昔の封建制度時代の価値観を踏まえたうえで語れる人は少ない。ほとんどの人が民主主義的価値観で昔の封建制度が悪かったと裁く。
なぜなら、民主主義の教養はともかく封建制度時代の教養を知っている人がほとんどいないからである。

 

教養とは何か、と問われれば、その時代の知性の物差しではなかろうか。
言い換えれば「その時代ごとに知ってたらみんなから頭イイと思われる知識」である。

 

中世の日本の教養とえいば四書五経だろう。
江戸時代あたりから朱子学、カウンターパートとしての陽明学あたりが教養の中心で、やがて本居宣長らによる"国学"が徐々に浸透し、明治時代以降あたりから科学哲学、民主主義、そして昭和の戦後に人権思想が大勢を占める"教養"となりえた。

 

現代の名著といわれる内容の多くは、人権、民主主義を説いたものである。
それはたまたま現代がそーいう時代だからだ。

 

しかし、宗教や哲学、倫理なんかの基本構造は変わってないような気もする。
俺の浅~い理解としては、以前にも書いたが、マルクス共産主義キリスト教の焼き直しだし、仏陀の"悟り"概念とカントの"超越論的認識論"は似てる気がする。