橘玲 新書2冊

橘玲「バカと無知 人間、この不都合な生きもの」

最新の心理学や脳科学の様々な知見を数ページごとにまとめた本。
内容的には「言ってはいけない」シリーズ?の延長線上的な新書。
週刊新潮の連載をまとめただけに多少話が前後する部分もあるが、いつも通り興味深い。

 

はじめに「正義」について語られる。
ここでは主にネットでのキャンセルカルチャー(高い地位のあるものを引きずり下ろすこと)について、何故、自分と無関係な人間を正義の名のもとにボコボコにリンチするのか?について、それは人間の本能だとする。

 

人間は集団生活・社会性をもつ生物であり、性愛を獲得するために高い地位を得ようとし、同時に高い地位の者を引きずり下ろす。なので、自分が高い地位を持つことがばれると引きずり下ろされるので、目立たないように高い地位を目指す、という複雑なゲームをしている。

さらに脳科学的には、地位の高いものが引きずり降ろされることで快感をおぼえる。同時に、地位が低い者をさげすむことでも快感を得る。

従って、匿名のネット言論は罵詈雑言で埋め尽くされると指摘する。

 

次は表題の「バカと無知」について
バカは自分を過大評価する。一方で賢い奴は自分を過小評価する。
この2人が話し合いをすると、バカに引きずられてロクな結果にならない。
民主主義という制度はこの危険をはらんでいる。

 

後半は、「自尊心」、「差別と偏見」、「記憶」について語られる。
いわゆるリベラルが目指すところの自由で平等な、差別のない社会というのは人間という生物の性質からして無理じゃね?と、リベラルな立場を表明している著者自身から疑問を呈する内容となっている。

 

 

橘玲「世界はなぜ地獄になるのか」

上記の本と同時に買った。「バカと無知」は短編集という感じだが、本書は長編であり内容はより深くまとめられている。

 

冒頭で本書の主張がまとめられている。
リベラル(=自分らしく生きる)は現代社会で道徳的に正しいとされる。
そのため、社会はリベラル化するのだが、一方で問題も出てくる。
格差の拡大、社会の複雑化、孤独化、アイデンティティの衝突、である。
それら問題はリベラリズムで解決はできない、と断言する。

 

例えば、一昔前には差別用語をめぐっては"言葉狩り"と言われた。
言葉狩りをした結果、差別はなくなったのか?

 

今、一番やっかいになっているのは性、LGBTなんかをめぐる問題である。
本書では各種性表現についての解説があるが、俺としては複雑怪奇である。
例えば、オッサンが「俺は心は女性でレズビアンだ」と宣言すれば、オッサンは女性であり、女性とセックスするわけだ。
これをどう認めるか問題がもう滅茶苦茶なレベル。

以下に、その問題の一部を引用する。

 

トランスジェンダー問題が混乱するのは、性自認を本人の申告に任せると、異性愛者の男がトランスジェンダーをかたって女性専用更衣室や女性トイレに堂々と侵入するのではないかという不安と、(女性に性的指向を持つ)同性愛者でペニスのあるトランス女性が、シスジェンダーの女性(とりわけレズビアン)の性的な脅威になるのではないかという不安が混在しているからだ。その結果、「(ラディカル)フェミニストvsトランス活動家」という左派(レフト)同志の衝突が起こり、それを保守派が利用して社会の不安を煽ることでさらに分断が進む混沌とした状況になっている。

 

…?一体、どういう状況なのか、この文章を理解するのに俺ぁ結構時間がかかりましたよ。

 

著者もこの問題の解決策についてはちょっと触りたくないッスという感じである。

 

ともかく、上記2冊、社会がリベラルになるがゆえに問題は増加・深刻化していく、という内容。

 

以上2冊、近いうちに某Hに送るので、買わなくていいよ。

 

本書では触れられてないが、小児性愛者をリベラルはどう見るのか?という疑問が俺にはある。あえて黙殺しているように思える。

生まれつきの小児性愛者を、その性的傾向から差別することはリベラル的立場から反対できないはずだ。だからといって、そういう性犯罪を野放しにできないはずだ。俺としては性に関してリベラルを主張する方々は、この問題に答えて頂きたい。